vol10の概要

 手を繋いだ夜から二人は以前にもまして食事に行ったり、しゃべったりする時間は増えた。微妙な距離感を残して。そんなある日、直子は彼の家に行く。一線を越える刹那、「まだ良太郎のことが好きだよ・・・私は。それでもいい?」その言葉に、彼は本当に欲しかったのは直子の体ではなく心だと気付き、その手を止めた。

第十話:本当に欲しかったもの。

 食事に行くことも増えた。しゃべる時間も増えた。ある時は泥酔した彼が酔って直子さんに電話をして、そのまま寝てしまったこともあった。
 彼は特に何かを求めたわけではなかった。
 ある夜、その日は特に月がきれいだった。満月。彼は直子さんを呼び出した。月夜の散歩。彼は彼女を見つめ、彼女は月に違う男を見ていた。それでも良かった。その距離感が丁度いいのだと思っていた。
 そんなとき、直子さんが彼の家に遊びに来た。名目は将棋を教えると言うことだった。彼は実家暮らし。母親や妹の目を避けつつ、部屋に招きいれた。もちろんばれていたわけだが。将棋のルールをひとしきり教え終わると、そこには妙な空気が流れていた。他の部屋には家族がいるというのに。彼は直子さんを押し倒していた。抱きしめたくてしょうがなかった。彼女も半分はそのつもりであったのだろう。特に抵抗することも無かった。上を脱がし、下を脱がし・・・唇を重ねようとした瞬間、彼女は言った。
「私、まだ彼のこと・・・それでも出きるよ。そういう女だよ・・・それでもいい?」
 体を重ねることはしごく簡単なことだった。それでも彼の手は止まった。欲しいのは目の前の裸ではない。彼女を抱きたいから好きだと言ったんじゃない。性欲のために相談に乗ってたわけじゃない。
 一線は越えることなく終わった。それが彼にとって、そして彼女にとっても最良の選択であったことは、その後二人が何でも話せるよき理解者となったことからも分かる。彼はその日、人生の大きな選択を、最もいい形で選ぶことが出来た。
 二人はそれからも食事をし、おしゃべりをした。
 そしてまた夏が来る。

次回:vol11 プロローグ最終話、そして出会う。

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